
「火の島」
石原慎太郎著
(文芸春秋社)
題字 2008
2008年11月12日(水)~11月20日(木)新潟絵屋にて開催致します。
三年前にこの字を書いた。胸に強く響くという意味のこの言葉を書いたら、心という字に突き刺さる刃のように見えた。半年後、展示をした。新しいものをいくつも書いたのに、展示の直前になって、この字を持って行くことにした。半年前に書いた紙のままで糸に吊るした。その一年後にもやっぱり展示の直前になって、持って行くことにした。持って行くというよりも連れて行くという気分に変わっていた。今年、それを裏打ちした。そしてまた展示に連れて行った。皺の伸びた字を展示の会場で眺めていたら、この言葉と刃を思い出させるこの形が、私が字を書く気持ちの根っこの形なのかと思った。三年前に書いた後も、あちこちに連れて行き、皺になり、その皺を伸ばして、また次の場所に連れて行く。
そして今度は、ここを出口にして、新たにはじめたいと思う。
(華雪記)
本展では、一文字の書、詩を書いた書、漢詩を刻んだ篆刻等、約30点を展示、販売致します。
また、現在『アーツ&クラフツ展』ウェブサイトhttp://www.asahi.com/la/にて、連載中の
作品も展示予定です。

・名 称 華雪展『刺心』
・期 間 2008年11月12日(水)~11月20日(木)
・営業時間 11:00~18:00 ※最終日は17:00まで
・会 場 新潟絵屋
新潟県中央区上大川前通10番町1864
・T E L 025-222-6888
・moreinfo>>新潟絵屋
午後から博物館へ行く。最後のニホンオオカミの剥製を見に行ったのだった。新潟に行く前に見たかった。あらかじめ許可を貰ってカメラを持って行く。たくさんの剥製が円形のステージに並んで、こちらを見ている。見ているように感じるのは、その頭がこちらを向いているからで、実際は彼らの目は黒く動きもせず、少し上に向けられていた。その目をいくら覗き込んでも、私とは目は合わない。視線が動かないということは気配がなくなるのだなと思った。それでも毛並みも整えられ、ライトの当たる彼らは立派だった。立派すぎて、いったい本当に野山に生きていたのだろうかと思う程、その毛皮には汚れ一つ見当たらないのだった。目的のニホンオオカミを探す。円形のステージを一周し、バイソンの前に戻って来た。もう一周して、鹿やヒョウに囲まれた、どこか近所の犬小屋から連れて来たような白い犬のかたちの動物に目が留まった。目の前のニホンオオカミは、どうしたのだろうと思う程、毛皮は薄汚れ、その耳も目はさっき見たアメリカの狼と同じ狼と思えない程小さく、足もともなにかに驚いて動きが止まってしまったように不安定だった。カメラ越しに、その目と耳をじっと見た。これだけは他の動物達と同じように、小さな黒い目は私の視線とは交わらず、こちらではないどこかに向けていた。前から見て、斜め上から見て、横から見ても、その目はぼんやりとした丸いガラス玉だった。背中側から目が向いている方向を見たとき、一瞬、顔つきの角度のせいなのだろう、その目が生きていた時を思った。さっきまでの何も見ていない目ではなくて、じっと何かを捉えるような目をふと感じた。そういう目で、白い毛皮をぼさぼさにしながら獲物を捕まえていたのだなと思ったら、今たよりなげな様子で目の前にあるかたちと頭の中を駈けるかたちが重なったり重ならなかったりを繰り返して、妙な気分になった。もうしばらく見ていたかったが、室内の電灯が少し暗くなり、閉館のアナウンスが流れ始めた。
外に出ると、夜になっていた。上野公園を歩いていたら操り人形を操る人がいた。クラッシックのCDをステレオから流しながら、それに合わせてバイオリンを持った人形を動かしている。人形の背後にはたっぷりした緋色のカーテンが下がったステージのミニチュアが置かれている。その向う側に人が次々と飲み込まれて行く上野駅の改札が見えて、そのさらに向う側に大きなクレーン車が見えて、その先に広がる街の明かりが見えた。
家のある駅に着くと、Nが迎えに来てくれる。白菜を鍋に入れて来たと言う。何か作ってくれるみたいだ。家に着くと、すぐ鍋のふたを開けて、白菜の続きをしていた。豚バラと白菜を蒸し煮にしたものを作ってくれる。私も時々作るけれど、これはもともとNに教えてもらった料理で、ただNが自分で作ったことはなかった気がする。特に難しいことは何もないので、誰が作っても同じだろうと思っていたら、食べると自分で作った時と味が全然違っていてびっくりする。Nが作った方がおいしい。そう言う。
ご飯を食べて、お腹が温かくなる。そうしたら突然、博物館で見た狼以外のことが口を突いて出て来る。メモを取ったわけでもなく、それほど真剣に見ていたわけでもなかった他のものが、次から次へと思い出されてきて、それを言わずにはいられないような気分になって、話し続ける。途中、涙が出る程笑ったり、自分でもどうしたんだろうと思いながら、2時間くらい掛かって話し終わる。めずらしいことにNも口を挟まずに、2時間ずっと一緒になって笑って聞いていた。その後に真面目な顔で、博物館で何があったんだと聞かれる。話し終わって、博物館の入り口でもらった館内地図を見ていたら、3分の1程しか見ていなかったことがわかった。全館をじっくり見たとしたら6時間くらい話し続けられる何かが頭に詰まって出口に立つのだろうかと思って、少しくらくらした。
お昼から別の仕事をして、また少し眠って、起きて別の仕事をする。午後からはもうなにも思い出さなくなる。
11月30日(日)11:30〜13:30
※開始時間変更しました
11月30日(日)15:30〜17:30
※開始時間変更しました